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小説「ふしだらな妄想」(25)夕焼け [小説]

黙ったまま二人は休憩室を出た。事務室に戻ってみると窓から鮮やかな夕日が見えた。
「きれいな夕焼けだ。もうこんな時間なんだ。・・・休憩室には窓がないから気付かなかった・・。」
私はレイコの肩を引き寄せ窓の近くに誘った。
 レイコは黙ったまま夕日を見つめていた。そのまぶしさのためか、それとも強い後悔のためか・・・その目に涙がうるみ、夕日を反射してきらきらと光っていた。

 

「・・・・あの・・・私・・・。」
こちらに顔を向け意を決したようにレイコが口を開いた。
・・・それ来た!・・・
その瞬間 私は両腕でレイコを強く抱きすくめ、何か言おうとした彼女の唇を自分の唇でふさいだ。彼女も私の体に腕をまわしそれにこたえた。

・・・お別れのキスのつもりか?・・・そうはさせない・・・。

私は唇を離し、そっと彼女の耳元で心縛法の呪文をささやいた。

「『○X△☆☆~#<Ф』大丈夫だ・・・。心配する事はないも無い。この事務所にいるときは、君の家族、私の家族の記憶はすべて忘れてしまいなさい。そしてこの事務所を出たときは、この中であった私のとの情事のことはすべて忘れてしまいなさい。いいね。」
「はい・・・。」

レイコは従順にうなづいた。

・・・完璧な呪文だ。・・・

 事務所を一歩出ると彼女の記憶から私との情事の部分が削除され、同時に良き妻良き母にもどる。家に帰って家族と顔をあわせても何の後ろめたさも感じないはずだ。
 そして一歩この事務所のドアをくぐって入ってくると、自分の家族そして私の妻のことは一切忘れ、何の気兼ねもなく私とSEXを堪能することができる。このドアを境に善良な主婦と淫乱なOLの二つの人格がいれかわるというわけだ。
 私は自分の妻を捨てる気持ちはないし、彼女の夫や子供からレイコを奪ってしまう気もない。
 男なら誰でも望むこんな自分勝手な都合の良い状況を心縛法なら何の苦も無く実現できる。

「それじゃあ、今日はこれでお先に失礼します。」
「ああ、お疲れさん!」

レイコは事務所のドアを開けて事務所を出ていった。


 ・・・ああ良かった。簡単な仕事で・・・。あんなにお給料がもらえるからには目が回るほど忙しいのかと思ってたけど全然楽だったわ・・・課長も優しい人だし・・・。そうそう、帰りに本屋さんによってパソコンのテキスト買わなきゃ。アレ?結局お昼から私、何してたんだっけ??・・・。

 Rコーポレーションのあるビルを出て駅に向かう道でレイコは思った。

・・・やっぱり初日で緊張してたのかしら?たいしたことはしてないのになんだか体が気だるいわ・・・。でも爽快って感じ・・・。やり遂げた満足感っていうか・・・これが仕事をするってことなのね。さぁ急いで保育園に子供を迎えに行かなくちゃ。・・・

 レイコは駅への道を小走りに急いだ。

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